コラム

22 交通事故加害者になってしまったら(1)~交通事故の話7~

2014年05月23日

 交通事故問題について、これまでは被害者側の視点からコラムを書いてきましたが、加害者となってしまったらどのような問題が生じるでしょうか。

 交通事故にもいろいろな類型があり、車同士の事故では、出会い頭の衝突事故など当事者双方に原因がある場合も少なくありません。事故によって被害を受けた者(Aとします)にも過失があり、相手方当事者(Bとします)にも損害が生じているとすれば、Aには、Bの損害のうちAの過失に相当する部分について賠償責任が生じますので、Aは被害者であると同時に加害者である、ということになります。
 つまり、被害者であっても責任を問われる場合はあり得ます。交通事故によってどのような責任が生じるのか把握されておくことは有益と考えます。

 よく言われることですが、交通事故によって生じる責任は、①行政上の責任、②刑事上の責任、③民事上の責任の3つに分類されます。

①行政上の責任 
 自動車を運転するためには公安委員会から運転免許を受けなければなりません(道路交通法第84条1項)。無免許運転は罰則でもって禁じられています(道路交通法第64条、第117条の4第2号)。
 運転免許は、交通違反等がある場合、公安委員会によって停止や取り消しといった処分がなされることがあります。ちなみに、「処分がなされることがあります」というのは、道路交通法上、公安委員会には、要件を満たす場合であっても処分しないという裁量が認められていることによります。行政上の責任のテーマは、免許停止、免許取り消しなどの行政処分です。

②刑事上の責任 
 不注意で交通事故を起こし、誰かをケガさせてしまった、とすれば、自動車運転過失致傷罪(刑法第211条2項)に該当し、刑罰の対象となり得ます(ある行為が刑罰法規に該当するとしても、裁判で有罪判決を受けない限り刑罰を科されることはありません。ある事件について刑事裁判及びこれを通じての処罰を求めるか否かは検察官の判断によります。人身事故であれば、例えば、事故態様が悪質でない、前科がない、加害者と被害者の示談が済んでおり被害弁償もされている、といった事情があるとすれば、検察官が刑事裁判を求めないことも十分にあり得ることで、その場合には、加害者の行為は刑罰法規に該当するものの刑罰は科されない、ということになります)。刑事上の責任のテーマは、刑罰の有無、範囲です。

③民事上の責任 
 不注意で交通事故を起こし、誰かをケガさせてしまったとすれば、これによる被害者の損害を賠償するべき責任を問われます(民法第709条、自動車損害賠償保障法第3条)。民事上の責任のテーマは私人間での金銭のやり取りです。

 

 交通事故で誰かにケガを負わせてしまったとすれば、加害者には、被害者に対する賠償金の支払いのほかにもさまざまな法律的な問題が生じることになります。交通事故は、被害者となる場合はもちろんのこと、加害者となる場合もまた不幸なことであるのは間違いありません。続く

 

弁護士 八木 俊行

伏見通法律事務所
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