コラム

27 待ち続けた結果は権利消滅(1)~債権回収の話5~

2014年06月17日

 債権回収を図るためには債権の執行力が必要ですが、その前提として「債権」が存在しなければならないのは当然のことです。

 「債権」は目に見えません。すでに記載したところですが(コラム17)、債権者としては、債務者が認めない限り、証拠によって事実関係を証明する必要があります。
 もっとも、証拠によって債権が発生したことが明らかになったとしても、その後に債権が消滅することもあります。その場合には、「債権」は存在しない、ということになります。

 では、債権はどのような場合に消滅するのでしょうか。債権の消滅原因としてはどのようなものがあるでしょうか。

 

 例えば、AさんがBさんに対し、平成16年5月1日に100万円を貸し付けた、約定では平成16年5月20日に返済することになっていた、という場合を考えます。

 もし、Bさんが約定通り100万円を返済したとすれば、AさんのBさんに対する債権(その性質は貸金返還請求権)は消滅します。
 当然のことですね。AさんはBさんから二重払いを受けることはできません。このような債権消滅原因を「弁済」といいます。

 また、実はBさんはAさんに対して100万円の売掛金債権を有していた、とすればどうでしょうか。
 BさんはAさんから売掛金100万円の支払いを受け、その後Aさんに貸金100万円を返済する、ということもできますが、事務処理が面倒です。
  そこで、Bさんは、Aさんに対する売掛金債権とAさんが有する貸金債権を対当額で相殺することができます。これによりAさんの債権は消滅することになります。このような債権消滅原因を「相殺」といいます。

  社会人の皆さんは、私などよりもよほどこのあたりのことは詳しくご存知のことと思います。

 Aさんは、「弁済」でも「相殺」でも、経済的に見れば全く損はしていません。「弁済」では約束どおり貸金が返済されていますし、「相殺」では貸金は返済されない代わりに自分の債務を免れています。

 

 もっとも、債権者が経済的に見て損をする債権消滅原因もあります。

 その一つが「消滅時効」です。

 上記の例で、AさんもBさんもいずれも個人であるとすれば、AさんのBさんに対する貸金債権は、平成26年5月20日の経過でもって消滅時効が完成します。
 その効果は「弁済」と同じく債権の消滅ですから、AさんはもはやBさんに対して法律上は貸金の返済を求めることはできない、ということになります(もちろん、Bさんにはあえて消滅時効を持ち出すことなく返済に応じるという選択肢もあり、その場合には、Aさんはお金を返してもらえることになります。そして、実際に、Bさんの勘違いなどから、そういうこともあり得ます)。
  消滅時効の効果は実に重大であり、権利者側から見れば非常に恐ろしい制度です。そのため、債権管理の上では「債権を消滅時効にかけない」
ということが何よりも重要となるわけです。

続く

弁護士 八木 俊行

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